活動の報告
西宮こしき岩アスベスト裁判報告 上田 進久
【その3】再開発事業における西宮市の対応と裁判の意義
(その1は
こちら その2は
こちら)
〈たった1棟からの提訴〉
2016年7月神戸地裁に提訴しました。原告は4才から83才までのすべての年代を含む38名で、ほとんどは初対面で自主的に参加した
人達でした。
我が子の健康を案じたり、西宮市のずさんな対応を知っての参加でしたが、義憤に留まる事なく真実の解明と飛散防止の徹底を願って
いました。
「アスベスト隠し」によって建物はほとんど撤去され、証拠は、消滅した悪条件を承知した上での提訴となりましたが、裁判によって
設計図書が開示されることを期待していました。
実際に設計図書の開示が決まった時は大いに喜んだものの、想像を絶するアスベスト使用を知り、健康被害が現実のものとなってこの事
件の重大さを痛感しました。
校舎が建てられた時代は国を挙げてアスベストが使用されていたことは常識です。
住民や子供たちの安全のために、関係者の誰か一人でも異議を唱えていれば飛散は防止できたかと思うと無念でなりません。
〈記録に残せたこと〉
裁判によって「解体時には相当量のアスベストが存在し、その一定量が飛散した」ことが明らかとなり、記録に残すことができました。
うやむやのまま闇に葬られることなく事実が解明できたことは、将来のために最低限の責任は果たせたのではないかと考えています。
〈白昼堂々の違法行為〉
この事件は、校舎を撤去してマンションを建設しようとする再開発事業に係るものです。
世の常として、住民に知らされる前から業者は、地元の有力者を訪れていました。
地元選出の市会議員を連れていた姿がよく見られたそうですが、自治会の対応も冷ややかなものでした
天井川である夙川は、土砂の流入を防止するためにその周辺流域は砂防法によって厳重に規制されています。
しかし、本件では、この様な社会の安全を軽視して無許可で工事をおこなった砂防法違反が住民によって摘発されました。
即ち、この大規模な開発事業において、砂防法違反やアスベスト飛散などの違法行為が、白昼堂々と行われていたことを思うと、西宮市
の政治や行政への信頼は消え失せて疑心暗鬼を生じることとなります。
現場は、長い間更地のまま放置されています。激しい降雨により沢山の土砂が川に流れこんでいることが心配ですが、この開発事業計画
が十分に検討され公正に審査されたのかなどの疑問が浮かんできます。
既存の建物の解体から始まる再開発事業において、解体に掛かる費用は利益を生むものではなく特にアスベスト除去には多額の費用が掛
かり、建設業者にとって頭の痛い問題です。
例えアスベスト除去が違法であっても罰金はわずか数十万円で済むなど軽く、厳罰や許認可制の導入などの法改正が求められています。
解体に伴うアスベスト飛散はかつて経済成長と共に国を挙げてアスベスト使用を奨励した時代の負の遺産とも言えますが、議員のなかで
も特に「保守」を自認する人こそこの問題に積極的に取り組んで欲しいものです。
〈有名無実化した通過儀式〉
また、開発計画について西宮市と度々協議を行い、さらに「紛争調停」や「開発審査会」などで訴えましたが、これらの手続きが有名無
実と化した単なる通過儀式に過ぎないことを苦々しい思いで経験しました。
西宮市が中核都市になって多くの権限が県から委譲されました。
例えば宅地造成の安全基準については、西宮市の基準は兵庫県を参考に作成されていますが細部は省略されており、その結果安全基準は
甘くなっています。
住民は、本件の宅地造成計画案の安全性について開発審査会に問題を提起しましたが、安全性についての検討は全くなされないまま西宮
市の基準に反していないことを理由に許可されました。
西宮市政や行政だけでなく審査会なども含めたものが、住民の安全を真剣に考えてその役割を果たしているのだろうかと疑いたくなりま
す。
かつて西宮市は「文教住宅都市」や「環境学習都市」を宣言してこれを、施策に活かして健全な市民社会と独自の文化を築いてきました。
私達市民はあらためて現実を直視して、名実ともに健全な社会を実現するために一人1人が考えなければなりません。
〈私達市民に求められるもの〉
このような経験を通じて、具体的な改善策が浮かんできました。
現在、開発事業においては「まちづくり条例」によって住民の生活が守られています。
ところが、この条例は解体工事には適応されません。
そこで、解体工事において市民生活を脅かす様々な問題を予防するために同様の条例を新たに策定することが必要です。
それには、アスベスト飛散防止に関する事項や騒音、振動の規制基準や工事が安全に行われるための様々な事項が含まれており、さらに現
在では、社会常識となっている工事協定を締結してトラブルを予防しようというものです。
アスベストに関しては環境省の
「リスクコミュニケーションガイドライン」を軸にして横須賀市では
「建築物の解体等工事に伴う紛争の未
然防止に関する条例」を既に策定しています。アスベスト飛散の防止や紛争の未然防止に向けた国や自治体の積極的な動きに呼応して、西宮
市においても新たな条例策定が必ず実現できるものと信じています。
私達は、住民の立場で身近に起こる解体や、建設事業に注目し、常に監視の目を向ける事により、子供たちの将来のため安全な社会を築か
なければなりません。