活動の報告

西宮こしき岩アスベスト裁判報告  上田 進久


【その2】なぜアスベスト飛散を防止できなかったのか?

 (その1はこちら


〈「アスベスト隠し」の実態〉
 住民は最初からアスベスト疑惑を訴えて何度も調査を求めましたが、「立ち入り検査でアスベストはないことを確認している」
という市の係官の言葉を信じるより他に方法はありませんでした。
 マンション計画案について協議した時の市の決まり文句は「法や条例に違反していない限り認めざるを得ない」というもので、
 少なくとも市は法の遵守に厳格であるという認識でした。
結果的には欺瞞的な説明の間に建物は撤去され続け、アスベストは飛散しました。残された1棟に住民が証拠保全で立入り、ア
スベストを発見し、この結果を提示して改めて調査を求めたところ「調査するつもりはない、アスベストはない」という環境局
長の理不尽な回答でした。
 最後まで調査を拒み続けた西宮市の行為に、初めて「アスベスト隠し」の背後にある黒い影に気付いたのでした。
 裁判により「アスベストは相当量存在し飛散した」ことが明らかとなりましたが、西宮市民にとって今後の健全な社会を取り戻
すために「アスベスト隠し」を検証することは不可欠であると考えます。

〈判決において示された事〉
 判決文には、アスベストが飛散したことやその理由について明記されていますが、これらの内容は裁判によって初めて示された
ものであり、より多くの皆様に知っていただくことにより今後の飛散防止に役立てたいと思います。
 以下に判決内容を示します。

 この点西宮市は届出制が採用されており、届け出の内容を超えて積極的な調査をする義務までは負わない旨を主張するが、
この主張は採用することは出来ない。」積極的な調査義務が無いということはないとして、積極的調査義務を認めました。

 さらに具体的な理由として、
 ①レベル1建材が残存しており、アスベスト全盛期の建物である事からアスベストが残存していることは容易に疑うことができた
 ②西宮市の職員は、設計図書を容易に入手することができた
 ③西宮市は三栄建設の調査能力について一定の疑問を抱くべきであった
 ④西宮市は、三栄建設に設計図書に基づいて調査したか否かの報告を求めておれば、三栄建設が調査を怠っていた事実を知るこ
とができ得ると共に、設計図書の提出を受けて、自ら石綿含有建材が残存しているか否かを確認することができたものと認めら
れる。この点、上記設計図書は、大防法26条にいう「関係帳簿書類」及び環境保全条例152条1項にいう「帳簿書類」または「物
件」に含まれるものと解される。

 西宮市の対応は、大気汚染防止法及び環境保全条例の趣旨に十分則した妥当なものであったと断ずることはできないとして、西
宮市の対応の不手際を認めました。
 さらに、「西宮市は、三栄建設が石綿の有無の調査を怠っていた事実が判明した段階で、改善勧告や改善命令等の規制権限を行
使していればそれ以降に本件解体工事により石綿が飛散することを防止する事ができた。」  以上、判決文より抜粋

〈これからの西宮市に求められること〉
 事業主や解体業者においては、違法行為は言うに及ばず、発がん性物質を飛散させるという非人道的行為は決して許されるもの
ではなく、社会倫理に基づいた活動を願うものです。
 また、西宮市においては、「設計図書は必要なし」「業者が届出たアスベストの有無についての調査内容を超えて調査する責務
は負っていない」とする主張は、ことごとく退けられ、設計図書の重要性と西宮市の積極的調査義務が示されました。
住民は現場に立ち入ることは出来ません。もしも行政による検査が適切でなければ現場は無法地帯と化し、アスベストが飛散す
ることとなります。
 西宮市はこれらの結果を謙虚に受け止め、今までの考えを改めて健全な市民生活の実現に努めていただきたいものです。

 解体によるアスベスト飛散問題は、建物の老朽化や少子化によって大きな社会問題となっています。
 西宮市においても、学校や公共施設の解体が予定されていますが、現状のままの対応では決して安全を保障できるものではあり
ません。
 住民の安全を守るために環境省では「リスクコミュニケーションガイドライン」を公表しました。
 業者が住民と情報を共有して互いに信頼関係を築き、リスクをなくそうという指導内容となっています。
ただし、これには法的拘束力はなく、業者の善意に頼るしかありませんが、これに従わない業者に対しては、行政の指導力が試
されることとなります。
 アスベスト除去には数千万円以上の多額の費用かかるため、「アスベスト隠し」に向かうことは自明の理です。
これを防止するために住民は行政に規制権限や調査権限を付与して、その適切な行使により安全な生活が保障されることを期待
しています。
 判決後の今後のアスベスト飛散防止の仕組みづくりに向けて住民・議会・行政が協力して取り組まなければなりません。

 (その3はこちら


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