活動の報告
震災とアスベスト ―30年目の課題― NPO ストップ・ザ・アスベスト 兵庫県保険医協会 上田進久
(これは、阪神・淡路大震災30年の集い(兵庫県保険医協会 西宮・芦屋支部企画)として、2025年1月18日に発表したものです。)
震災から30年となります。都市直下型の大震災に拠て多くの建物が倒壊し、火災も加わって多くの人が犠牲になりました。
メディアでは連日話題になっていますが、その中でアスベスト被害者についてどのメディアも取り上げないことに疑問を感じて
います。
その理由について考えたことをお話しし、またまだ油断できない震災アスベスト問題について説明したいと思います。
1.あなたは震災アスベスト曝露を知っていますか?
震災30年目に原点に立ち返り、震災に係わったすべての人たちに向けて、アスベストが飛散したことを伝え、曝露リスクを説
明することが大切です。
あまりにも危険な発ガンリスクに伴う未曽有の曝露状態に対して、被災地で行われた不適切な環境庁調査や、思考停止したま
まの国や自治体の「不作為」について、再検証を怠ってきた私たちには真摯な反省が求められます。
以下は、話の中で参考になるアスベストについての基本知識です。
2.アスベストって何だ?
①すぐれた物性:耐火、耐熱、耐摩耗性、耐腐食性などに優れ、軽量で3,000品目に使用されているが、輸入量の8割は建造物に
使用された
②種類によって異なる発ガン性:
クリソタイル(白):アモサイト(茶):クロシドライト(青)=1:4:10
③問題意識:「クボタショック2005年」の後から一般の住民にも問題意識が高まった
アスベスト繊維は髪の毛の1/5,000と細く、刺激もなく、吸い込んだことに気づかない
発病までの潜伏期が数十年と長いなどと、アスベスト問題は「漠然」としている
発ガン強度が石綿の種類によって異なり、青石綿が最も強く、白石綿の10倍とされており、私(上田)が、当時の「環境庁に
よる調査が「不適切」だと訴える根拠となっている。
3.兵庫県保険医協会で行った震災アスベストに関するアンケート調査結果の説明:
兵庫県下の会員を対象に行い、医家・歯科・薬科合わせて306名から回答があった。
①粉塵に混じってアスベストが飛散したが、その防護対策について尋ねた。54%が「意識しなかった」、多少を含めても「注意し
ていた」は30%であった。
②震災に関連したアスベスト被害者の発生を52%が「知らない」と回答し、年代別では30代で70%に及んだ。
③これからの被害者の推移については、約40%が「被害者の増加」を予想、「ほとんど増えない」がわずか1%であった。
結果として、震災アスベストに関する情報が十分に伝わっていないことが明らかとなった。
4.「漠然とした」震災アスベスト問題について
その原因を考え以下の2点にまとめることができました。環境問題は常に新しい知見に基づいて科学的に検証されなければなり
ません。
①評価されない曝露リスク
アスベスト濃度測定値は曝露リスクを検討する際に最も重要なデータですが、阪神大震災ではあろうことかこの測定方法が歪め
られました。
青石綿の現場であっても白石綿だけを測定し、これを「石綿濃度」として公表しました。今風に言えば「フェイクニュース」で
す。これによってリスクは過少評価されましたが、再検証されることなく現在に至っています。我が国の貧弱な安全思想を象徴し
ています。
②認知されない被害者の実態
私達が知りたいのは、どのような人に、どれくらいの規模で被害者が発生しているかですが未だ不明のままです。
これは、被害調査がまとまった形で行われていない行政の不作為が最大の原因ですが、メディアによる報道の仕方に問題はない
でしょうか?
その一つが「○人目の労災認定」という報道ですが、これは労災保険の加入者だけを切り取ったもので、マニアックで次元を異
にする情報です。
最も重要な被害者の全体像が不明のままで、むしろ「被害者が少ない」との誤解を招いています。
また、「ボランティア元年」と称されましたが、これに応えるべく全国の人達にむけて、アスベストの危険性を伝え注意を呼び
掛けることが大切だと思います。
震災から30年が経った現在、震災に伴うアスベストの危険性は一部の関係者に限られた情報であって、一般の人たちには十分に
伝わっていません。
役所の情報は、「アスベストに心配な方は・・・」として肺ガン検診を勧めていますが、「震災でアスベストの危険があること」
はどこにも説明されていません。
5.アスベスト飛散のリスク評価
この様な条件(濃度測定値が当てにならない)においてリスクを評価するには、飛散・曝露に関する映像や被災地からのレポート
などの状況証拠や、水面下で拡大しつつある被害者の実態を証拠としてリスク評価を提示することができます。
過去に放送された動画(NHK報道番組、2009/1/16「終わらないあの日」)からは、現場に散乱する青石綿の塊や舞い上がる粉
塵の中で働く作業員はマスクも着けず、傍を行きかう通行人にもマスク着用は少ない状況です。
以下は被災地からの報告記事から抜粋しました。
〈高濃度のアスベストを検出〉貴重な証拠となった青石綿濃度測定値
2月18日にアスベストの中では最も有毒であるクロシドライト(青石綿)が吹き付けてあったマンションの解体作業現場でアスベスト
粉じん濃度を測定しました。
場所は、神戸市東灘区の国道2号線田中交差点の近くで、国道に面して歩道を塞ぐように倒壊した建物の解体現場で、水もかけずに
作業していました。
敷地境界から約2m離れた歩道上で、一般の人が歩いているところの2ヶ所でサンプリングしました。
結果は大気1リットルあたり160本と250本でした。
この値はエ場の敷地境界でのアスベスト排出基準値の16倍から25倍にあたります。
作業環境中のクロシドライトの管理濃度と同じレベルで屋外作業としては非常に高濃度でした。
作業者は防塵マスクも支給されずに作業していました。
このマンションの住民がマスクもつけずに歩道上でずっと作業を見学し、アルバムや鞄などが見つかると自分のものか確認していま
した。
また、そばをー般の人たちがほこりを避けるように小走りに行き交い、これも問題だなと思いました。(「環境監視」42号 1995年4月)
〈西宮市〉西宮酒造解体工事
大型クレーンが鉄屑を、とりあえず道路の上に下ろす。
どの鉄屑にも青石綿がびっしりと付着している。これをクレーンでトラックに積み直す。
クレーンが動くたびにパラパラと、ガクンとなるたびにバースデーケーキの大きさで青石綿が天から降る。
人も車も通行量は決して多くない道路だが、小学生をはじめ色々な人がクレーンの下をかいくぐる。
歩行者の体へ、まるでご飯の「ふりかけ」のように発がん性物質が注がれる。
義務のはずのカバーシートは見当たらず、少し離れると空気がキラキラ光っているのが見える。
現場の作業員の半分くらい、道路上の作業員は全員防塵マスクをしていない。
トラックの荷台が一杯になると、アスベスト鉄屑にはただのロープのみが掛けられ、トラックはラッシュで混雑する国道へと走り
去った。(「ASNET」32号 1995年8月)
このように、今ではとても想像できないような劣悪なアスベスト環境であったことが認められます。
6.「震災アスベスト曝露のリスク評価」の検討(1)
飛散・曝露に関する状況証拠より
倒壊した建物には発ガン性の強い青石綿や茶石綿が高濃度に吹き付けられていました。
労働安全衛生法や吹付石綿除去方法が既に存在していましたが、重機による非除去解体など飛散防止対策はありませんでした。
マスク着用や注意喚起はなく曝露防護対策は不十分でした。
7.「震災アスベスト曝露のリスク評価」の検討(2)
被害者の発生状況より
実態調査は行われておらず、メディアによる報道は「○人目の労災認定」を強調するばかりで被害の全体像を伝えているとは
思えません。
一方、「石綿疾病17名が阪神・淡路経験」の神戸新聞調査報道は水面下で拡大しつつある被害者の実態を伝え、その中でもア
スベストを扱う作業とは無縁のボランティアが2名含まれていたことは重大です。これにより被災地では街全体にアスベストが
飛散し、危険な状態であったと認識すべきであり、作業員の他に一般の人たちにも発病の恐れがあると考えなければなりません。
8.「震災アスベスト曝露のリスク評価」の検討(3)
不適切な環境庁調査結果を引用し、誤まったリスク評価を公表し続け、被害対策には無関心です。
神戸市ホームページ掲載記事:環境庁の調査結果を掲げ「一般市民への震災によるアスベストの影響は基本的に小さい」
これは自治体にとって都合の良い結論ですが、その判断根拠には重大なフェイクが含まれています。健康に関する誤った情報は
早急に訂正されなければなりません。
9.中皮腫の潜伏期は40年とされ、2035年をピークに被害者の増加が危惧されています。
作業員の他にも公務員やボランティアなど被災地で活動していた人たちや、避難生活を送っていた住民は「ハイリスク」である
ことを自覚して、早期発見のために積極的な「肺ガン検診」の受診を心がけてください。