活動の報告
旧夙川短大校舎解体に伴うアスベスト飛散事件の概要
1.事業の概要
旧夙川短期大学(西宮市甑岩町)には、11棟の校舎があり、いずれもアスベストが多量に使用された時代に建てられていました。
2013年春、突然売却されたことが知らされて、その後10か月間にわたって解体工事が行われることになりました。
開催された住民説明会において、事業主の㈱創建は、
「西宮市から指摘された一部の場所以外にアスベストはない」と説明し、工事を強行しました。
この非常識な行いに対し、住民は、西宮市に何度もアスベストの調査を求めましたが、担当課職員は
「調査したがアスベストはなかった」 と説明を繰り返すだけでした。
ついに10か月間に及ぶ解体工事は一棟を残して終了しました。その後、住民は、残された建物に証拠保全の手続きをとって立ち入り調査を行いました。
2. 西宮市役所への疑惑に提訴を決断
住民は、上記の立ち入り調査によって、アスベストレベル2を発見しました。
その分析結果を添えて、当時の環境局長である田村氏(2019/4~2023/3 副市長)に提出しましたが
「アスベストはない!調査するつもりはない」と信じられない強弁を繰り返すばかりでした。
このような西宮市の理不尽な対応では歪められた事実だけが残されるため、西宮市を提訴することを決断しました。それまでにも西宮市の説明を疑っていましたが、信頼されるべき行政がその正体を現した瞬間であり、「アスベスト隠し」の疑惑がさらに深まるのでした。
3.原告募集から提訴へ
住民は、半径1km以内にチラシを配布し、原告を募集しました。最終的に38名の原告団を結成し、2016年7月27日神戸地裁に提訴しました。
4.裁判経過
まず初めに、全校舎の設計図書の開示を求めました。
設計図書は、原告にとっては有力な証拠となりました。アスベスト使用記録によると、予想を遥かに超えた大量のアスベストが使用されており、飛散対策がないまま解体された非人道的な行為に怒りを感じると同時に、被害者の発生が現実問題となりました。
法廷では、被告側の反論らしい反論はなく、一部の専門業者によるアスベスト除去以外は、飛散防止対策がないままで違法に解体されたことが事実認定されました。
このような状況では、当然のことながら土壌汚染についても注意が必要なことは言うまでもありません。
5.判決と裁判の意義
2019年4月の判決は、
「原告らの請求は棄却する」でしたが、裁判によって重要な事実が明らかになり、記録に残すことができました。
最も重要なことは、解体時には相当量のアスベスト(レベル1:10,レベル2:9,レベル3:137か所)が存在したにもかかわらず飛散防止策がないまま解体されたために周辺に飛散したこことを司法が認めたことです。
解体業者については、違法解体であることが認められ、被害者が発生した場合には損害賠償の責任を負うとし、事業主の㈱創建については、改正前の大気汚染防止法では責任はないとされました。
行政に対しては、調査の不備や監督指導権限の不作為について指摘しましたが、違法とまでは言えないとの結論でした。
原告の立証責任というアスベスト裁判にとっては致命的ともいえる不公正な手法に阻まれたのでした。
裁判においては、原告らに立証責任があるとされ、
「アスベスト隠し」に行政が加担すれば、証拠はすべて消滅してしまうのです。
また、行政の対応については、大気汚染防止法の原理原則に戻って、積極的に権限を行使して住民の安全に資するべきことが明記されました。
さらに、西宮市の調査方法の不備について指摘し、設計図書の重要性についても言及がありました。
西宮市が主張していた無責任な対応には、
「届出制であっても、届出内容を越えて調査する責務を負う」ことが明記されました。
6.残された重要な課題
想像を絶するアスベスト飛散事件であり、被害者の発生が危惧される状況であるため、事後対策について西宮市長石井登志郎氏に対し、協議を求めました。
まずは、飛散の事実を公表し、被曝者の健康リスクを科学的に評価することを求めました。そして、同様の要望書を西宮市保健所長、同教育長に宛てて提出しましたが、司法に丸投げするだけの無責任な回答を繰り返すだけでした。
さらに、
「法的責任はない」として、住民や学童、生徒たちにどれほどのリスクがあったかの評価すらも検討しようとはしませんでした。
わが国で発生したアスベスト飛散事故については、多くの例で検証委員会が設置され報告書が提出されています。
これによれば、
「市の損害賠償責任は、過失の有無を問わない責任と位置付けるべきである」として、司法による法的責任の判断とは明確に区別して健康への対策を重要視しています。
「アスベスト隠し」による飛散防止策なしの工事を黙認したこと自体、市民に対する重大な背信行為です。
さらに
「飛散隠し」へと住民の健康や安全を軽視し、被害者発生予防について話し合おうとすらしない無責任な行為の代償は重いと言わざるを得ません。
近年、わが国で発生したアスベスト飛散事件の中でも本件は、間違いなく最大級の曝露ですが、飛散の事実を公表もせず、事後対策についても放置したままで、話し合うことすら回避し続ける無責任な態度に強く抗議します。