活動の報告

法改正と私たちの裁判の意義 ―第8回石綿問題総合対策研究会に参加して―

ストップ ザ アスベスト西宮 代表 上田 進久

 2020年2月2日、第8回石綿問題総合対策研究会に参加し、行政による「アスベスト隠し」にどのように対応するかについて、私たちの判決で得られた成果を発表した。
 裁判では、「解体時には相当量のアスベストが存在し、その一定量が飛散した」ことが事実認定された。これは裁判によって開示された設計図書に基づいて審理された結果であり、証拠としての設計図書の重要性を示すものである。
 さらに行政の対応については、①設計図書の重要性が示され、必要があれば提出を求めて調査すること②届け出制であっても、届け出内容を超えて調査する責務を負うことが示された。
 研究会では、初日に厚労省、環境省から法改正についての説明があったが、「重箱の隅をつつく」だけであまり興味が湧く容ではなかった。その中で気になった言葉があった。
 まずは「書面」であるが、明らかに設計図書が含まれているにもかかわらず、その語句は一度も耳にすることはなかった。
 設計図書は、医療における診療録に該当し、証拠としても重要であり、決して「書面」とは言わない。また、「調査」は業者について使用される一方で、行政には「検査」が区別して使用されていた。
 広辞苑によれば「検査」とはある基準に基づいて適不適を判断するとあるが、これは多くの自治体が主張する立ち入り検査の内容である。
 届けられた箇所に限って適切なアスベスト除去の確認を行うものであり、業者による過少申告や「アスベスト隠し」は業者の責任であるとして行政は調査には関らないとする考えである。
 これに対して判決文を引用すると、「西宮市は届け出制を採用しており、届け出内容を超えて積極的な調査をする義務までは負わない旨を主張するが、この主張は採用することはできない」ときっぱりと否定されているのである。
 上記①②の共通点は、いずれも事前調査における行政の調査義務を認めている点において、先進的な改善策が明示されたことである。
 また、別のセッションにおいて、第三者機関による完了検査の必要性が論議されたが、発がん性物質を安全に除去するためには当然のことであり、この導入に躊躇していることに疑問を感じる。
 英米の報告は飛散防止策について本気で取り組んでいる様子が細部にわたって伺える内容であった。
 ドイツでは労災保険組合が、韓国ではPTAの関係者が権限を与えられて調査を行っているというもので、まことに英知に富んだ対策に感心した次第である。
 利益相反する機関や第三者による検査が不可欠であることは言うまでもない。「常識」の詰まった新しい重箱に取り換える時期に来ていることは、誰もが気づいていることでしょう。
 研究会に参加して、誰にも束縛されない住民の立場で取り組むことの意義を再確認した。

第8回石綿問題総合対策研究会 発表資料


抄録「西宮旧夙川短大校舎解体におけるアスベスト飛散事件」の裁判結果とその意義 ― 住民の立場から ―


抄録「西宮旧夙川短大校舎解体におけるアスベスト飛散事件」の裁判結果とその意義 ―弁護士の立場から ―


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