西宮こしき岩アスベスト裁判原告 38名
原告団代表 上田 進久
私たち、38名は、本日、株式会社創建、三栄建設株式会社、西宮市を被告とし、平成25年6月から
10か月間にわたり実施された夙川学院短期大学校舎の解体工事で周辺環境にアスベストが飛散した問題
の全容解明と責任追及を求めるための損害賠償請求訴訟を提起しました。
校舎の解体工事について説明を受けた近隣住民は、一部しかアスベストがないとする事業主と解体業者
の説明に疑問を持ち、西宮市に対し、十分な調査と対策を求めてきましたが、西宮市は調査でアスベスト
が無いことを確認しているとして、住民の不安や疑問に答えてくれませんでした。
やむを得ず、住民自ら情報公開請求を行い、裁判所に証拠保全を請求し現在残っている校舎(9号館)
の調査を行い、設計図書の一部も取り寄せ、校舎に大量のアスベストがあったことを示す根拠を西宮市に
提示し、全容解明と違反行為に対する処分を求めました。しかし、西宮市は、アスベストがないとされて
いた9号館からアスベストが発見されても、設計図書にアスベストの使用を示す記載が多数発見されても
、アスベストがなかったという姿勢を変えず、設計図書の調査すらしませんでした。
解体工事の期間中、工事現場から大量の粉じんが周辺に飛散する様子を近隣住民は目の当たりにしてき
ました。粉じんの中に大量のアスベストが含まれていたらと思うと私たちは激しい不安に襲われます。夙
川学院短期大学跡地周辺には多数の学校があり、毎日、児童や生徒が通学で跡地と隣接する道路を使用し
ていました。近隣住民だけでなく、解体現場にいた作業員のことも心配です。
アスベストがあることを知らされず、十分な保護具もなく長期間アスベストにさらされていたかもと思う
と胸が痛みます。
解体され、既に無くなった建物にアスベストがあったことを証明することは、監督・調査権限のない私
たち一般市民には大変難しいことです。しかし、私たちが、この問題をうやむやにできないと、裁判提起
に踏み切ったのは、子どもたちや近隣住民が将来発病した時に備えて、アスベストについての全容を解明
し記録に残すと共に、責任の所在を明らかにしておくことが私たちの使命と考えたからです。裁判には原
告として子どもたちも参加をしています。幼い子どもたちにはアスベストの危険性はわからず、自分で被
害を受けないように気をつけることはできません。だからこそ大人には、若い世代の安全な生活や健康な
将来を守る義務があります。
解体工事現場から発生するアスベスト曝露の問題の予防策は、飛散防止を徹底させることしかなく、正
確で十分な調査が重要となります。そのためには、近隣住民・行政・業者が互いに情報を共有し、住民が
飛散防止対策に関われる仕組みが必要です。しかし、現実には、住民には業者から提供された情報を検証
する術はなく、行政機関が調査権限を活用し、違法な解体工事を未然に防がなければ、住民の安全な生活
を保障されません。
私たちの事例では、西宮市が校舎のアスベストの存在可能性を把握し、調査をすべきだった機会が何度
かありましたが、それを怠ったため、ついには健康被害が危惧される事態に至っています。何十回にも及
ぶ西宮市とのやり取りの中で、私たちは、西宮市が、アスベストに対する問題意識が余りにも稀薄で、住
民をアスベストから守るための知識や技術を備えていないと結論づけざるを得ませんでした。アスベスト
飛散の一時的責任は解体業者と事業主にありますが、西宮市を被告に加えたのは、市が適切に調査・監督
権限を行使しなければ、市民を健康被害から守れないことを自覚してもらい、再発防止の体制づくりを促
す目的もあります。
学校やビル等アスベストが大量に使用されている建物の老朽化に伴う解体工事が今後ますます増加して
いきますが、これに対する法律の規制や行政の対応はまだまだ遅れています。そして、この問題に対する
一般市民の危機意識はまだ低く、住民自らが監視しなければずさんな工事によりアスベストが飛散してし
まうことを多くの人は知りません。
私たちは、住民の立場で解体工事に伴うアスベスト飛散防止に取り組む団体である「ストップ ザ ア
スベスト西宮」を立ち上げました。今後、住民が業者や行政とやり取りをしながら、アスベストの飛散を
防いでいく活動を広めていきたいと考えています。
この裁判は、解体工事に伴うアスベスト飛散がどこにでも起こりうることであるという現状の告発でも
あります。裁判を契機に問題意識が高まり、飛散防止に向けた取り組みが進み、将来アスベストによる健
康被害に苦しむ人を減らす結果につながることを切に望みます。
以上