連載コラム 今なぜアスベスト問題なのか

ドイツ連邦環境庁のアスベスト情報(後編)

ドイツ連邦環境庁HPに掲載されているアスベスト情報の後編です。(前編はこちら

アスベスト含有建造物&住居はいつ無害化されなければならないか?

建造物内の飛散性アスベスト使用とは対照的に、アスベストセメント製品に対しては、原則的な無害化命令はない。
というのは、当たり前に使われている限りアスベストを内部に含有する製品には問題はなく、無害化によって、むしろはるかに
多くの繊維が暴露されることになるからである。

アスベスト含有のアスベストセメント製品は使用していて問題がなければ、それ自体が居住者の健康を害することはない。
無害化の必要性、およびアスベスト含有建造物の部分除去の必要性が生じるのは、当該の建物の建築上、および技術上の状態評
価による。

この評価は、 有害物質519技術規則No.2.7に従い、認定を受けたアスベスト専門家により行われなければならない。
コストのかさむ大気中のアスベスト繊維測定は、通常は必要ではないし、またそれほど意味もない。
なぜなら、そこからは、どんな直接的な処置も導き出すことができないからである。

たとえ床材がアスベスト含有のフロア・フレックス・ボードやフレックス・ボードであっても、無傷であれば健康に対する危険
はないし、普通に使用している場合も危険はない。
しかし、この床材がひどくすり減ったり、欠け始めた時には、専門的知識に則って、除去されなければならない。

そのような床材を除去する場合には、使用頻度の高い黒茶色のビチューメン糊剤も同様にアスベスト含有物である可能性が高い
ことに注意しなくてはならない。

アスベスト無害化の際には何を注意しなければならないか?

建築物の中にアスベストが存在する場合、解体作業、無害化作業およびメンテナンス作業(ASI)は、必要な職員数および安全技
術上の必要条件を満たし、権限を有する役所から適合許可(有害物質519技術規則による専門知識証明書)を得ている業者によっ
てのみ施行されることが許されている。

その際、場合によっては、例えば床板の除去や穴あけ、さらに被覆や雨樋の取り付けなど、必要な準備や副次的な作業もASI規定
の中に入っている。
当該の規則集は、以下のパラグラフ「アスベスト取扱作業にはどのような規則があるのか?」を参照のこと。

アスベスト取扱作業にはどのような規則があるのか?

アスベストの使用禁止と取扱制限についてのドイツにおける重要な法的根拠は、以下のものである。
・化学物質-禁止令(ChemVerbotsV)
有害物質令 (GefStoffV)
有害物質519技術規則 (TRGS519) - アスベスト:解体作業、無害化作業およびメンテナンス作業

あらゆる規則および命令の根拠は、EU拡大アスベスト使用禁止(REACH規則[EC] No.1907/2006)*である。
これは、潜在的に該当するすべての範囲に、すなわち個人の場合にもあてはまる。

* REACH規則:Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals.
「化学物質の登録、評価、認可、及び、制限」欧州連合が設置した欧州化学物質庁 (ECHA)が行う
 (欧州の新たな化学品規制(REACH規則)に関する解説書

有害物質519技術規則

建築物の解体作業、無害化作業およびメンテナンス作業におけるアスベスト取り扱いは、有害物質519技術規則に規定されている。
個人もこの規則を守らなければならない。

従って、例えば、穴を開ける、鋸で引く、研磨する、切削する、捻じ曲げる、また、高圧をかけて洗浄することなどで、アスベスト
繊維が暴露されることは、絶対に避けなければならない。

アスベスト含有製品、あるいは含有素材は決して砕いてはならず、専門的見地から正しく輸送され、また正しく廃棄されなければな
らない。防護服を着用し呼吸用保護具を装着しなければならない。

飛散性アスベスト製品無害化の緊急性についての判断には、有害物質519技術規則に則り、その都度各州ごとのアスベストガイドラ
インが適用されなければならない。
これらのガイドラインにおいては、特に、アスベスト無害化の必要性を重視した諸基準が設けられなければならない。

また、有害物質519技術規則は、飛散性アスベスト製品(例えば吹き付けアスベスト)の無害化作業は、有害物質519技術規則に則っ
た、アスベスト専門知識証明書を持った専門の業者によってのみ許可されており、所轄の役所が介入しなければならないことを規定
している。

有害物質519技術規則は、明確に、連邦および州廃棄物労働委員会*(LAGA)における、アスベスト含有廃棄物処理執行令を参照するよ
うに指示している。

*LAGA (Bund/Länder-Arbeitsgemeinschaft Abfall) 環境省の諸会議に属する廃棄物処理のための労働委員会

アスベストを取り扱わなければならない時、何をしなければならないか

個人の場合、特に、日曜大工をする人々とその家族がアスベストに暴露してしまうのは、アスベストが引き起こす害を認識していな
いから、あるいは、また、予防措置について十分な知識を持っていないからである。
従って、個人の場合、常にアスベスト繊維が暴露されたり、吸い込まれたりする可能性があり、一層危険である。

アスベスト含有製品が使い古されて、リフォームの過程で除去され、あるいは特別な使われ方をすることによって、このような危険
は起こる。

アスベスト含有建築部材を(例えば、穴を開けたり、鋸で引いたりして)加工する際には、適切に解体するか、除去しなければ、アス
ベスト繊維は、かなり高い濃度で暴露されてしまいかねない。

上記で述べたように、不測の健康上の害を及ぼすことが即座に認識されなければ、残念だが、長い潜伏期間が経過してしまう。
アスベスト製品を取り扱う場合には、そもそもパニックをも防止するという、慎重さが求められるのである。

個人あるいは家庭で行われる日曜大工は頻度が低いため、高い頻度で恒常的に繰り返される職業上の作業と同等に置くことはできない。
この理由から罹患リスクは、限定的で低い。

ドイツ癌研究センターは個人の場合のアスベスト暴露におけるリスクについて、アスベスト繊維が暴露したためか、あるいはアスベスト
繊維が吸い込まれたためか、どちらなのかを判断することは困難なことが多いと報告している。

このような場合、この問いに対し確実な答えを出せるのは、その周囲の空気あるいは空間の空気内アスベスト繊維集積濃度を最新の専門
的測定法で計測することだけである。
しかも効果的に正確に測るには、何日もに亘って計測しなければならず、おまけに高額である。

これに対して、素材検査や粉じん検査を行う方が簡単で安く済む。
この方が問題となっている素材が本当にアスベスト含有かどうかの明確な判断ができる。

素材検査は、アスベスト製品に特化した検査機関または測定機関の検査において、そのアスベスト量を測ることができるし、問題となっ
ているのが非飛散性アスベストなのか、あるいは飛散性アスベスト製品なのかを検査することもできるのである。

もし、ある年月に亘る期間、高濃度でアスベスト繊維の暴露を受け、ひょっとするとそれを吸い込んだかもしれないという疑いを実証し
なければならないなら、真っ先に相談すべきは主治医であり、この主治医が場合によっては、肺の専門医、あるいは労働医学の専門家を
紹介することになる。

通常は、家庭でのアスベスト暴露にあたって、継続的な予防検診が告知されることはない。
ドイツ癌研究センターは、この関連で、次のように報告している。医師は関与中の人々と手を携え、アスベストによる罹病リスクに対し
て行う、生涯に亘る予防検診のリスク(繰り返しレントゲンを照射することで同時に生じる放射線暴露)も合わせて慎重に考慮していか
なければならないと。

もし居住環境、あるいは職場でアスベストに暴露した場合、どこでアドバイスを受けられるか、支援してもらえるか

連邦および州と多数の自治体の環境官庁は、その管轄の枠内で、アスベスト含有素材の取扱に関する非常に有益な情報を提供している。
すでに発表されているリストには、その地域の諸機関や専門家の情報がある。それぞれの環境官庁のインターネットサイト上では、それ
らは、たいてい「アスベスト」という見出し語で検索できる。
中でも代表的なのが、以下に挙げた情報小冊子とウェブサイトと言えるだろう。

バイエルン州環境庁:環境知識とアスベスト
・ノルトラインヴェストファーレン州都デュッセルドルフ環境庁:建造物内の有害物質、アスベスト
ベルリン-テンペルホーフ-シェーネベルク管区庁:個人のアスベストの取扱について
オーバーハウゼン市、公衆衛生制度と環境保護:アスベスト注意書き

ポータルU (ドイツ連邦および州の環境ポータルサイト)を検索することも有益である。

連邦建築・都市・空間開発連合(BBSR)の小冊子は、建築主や建築家、リフォーム業者や処理業者のために作られており、アスベスト有無
診断の際の助言を与えている(BBSR報告 2/2010 : 有害物質アスベスト)。
消費者機関および、検査機関のような他の諸機関でも、素材のアスベスト含有の有無を検査できる。
商品テスト財団もこの点についての有益なヒントを提供している。

ドイツ連邦環境庁は次のようにアドバイスしている。

もし、あなたの居住空間でアスベストが暴露したかどうか、不確実な場合、もし、アスベストを含有する素材と接触した場合、まず、
あなたの地域の環境庁に、もしくは、労働安全局に対し、どのような措置をとるべきかについて照会してほしい。
また、アスベストを含有する可能性のある器具や製品をごみ処理しようとする場合は、あなたの地域のごみ廃棄物処理業者に依頼して
欲しい。

「職場におけるアスベスト処理と職業病」というテーマに関しては、連邦労働安全衛生研究所(BauA)ドイツ法定傷害保険(DGUV)が、
アスベストという見出し語のもとに、必要な情報を提供している。

ドイツ癌研究センター(dkfz)の癌情報サービスもこのテーマに関して詳細に情報提供しており、アスベスト防止とアスベストによるリス
クに関する注意喚起を行っている。

アスベストはドイツ以外の国々でも禁止されているのか?

ドイツでは、1993年以降、アスベストを製造することも、アスベスト含有製品を製造することも、それらを流通することも使うことも
禁止されている。
この包括的な禁止令がEUで有効となったのは、2005年以降のことである。主な工業国においてもアスベストは禁止されている。

それに対して、残念ながら、発展途上国や、中進国(例えば中国、インド、ロシア)では、アスベストが非常に多く使われている。
アスベストは、代替品よりも明らかに安価であり、その危険性が責任を負うべき者たちによって看過されているからである。
ロシア、中国、カザフスタン、そしてブラジルが世界中に多量にアスベストを供給する生産国である。

世界保健機構(WHO)と並んで、特に、世界的にアスベスト禁止に力を入れているのが、国際社会保障協会(ISSA)である。
その「予防特別委員会」は、2004年北京宣言の中ですべての国々に対し、あらゆる種類のアスベストとアスベスト含有製品の製造、
売買、使用を禁止するよう呼びかけた。